#10 失われた部位が痛む
もしも小さなものを見るのが得意な人と
大きなものを見るのが得意な人がいるならば
私は前者だと思う。
身体が人よりもすこし小さいから
こまごましたものを触ったり
小さなものをよく眺めたりするのに向いている。
この先は公開解剖の話がしばらく続く。
ルイシュという学者が見事なメスさばきをふるう。
流れるような動きによって人間を身体に変えて、
複雑な時計を分解するように臓器を並べる。
死の脅威が消え去る。
私たちは機械(メカニズム)だと悟る。
恐怖を追い払いたいのなら
平静な気持ちでその対象をよく眺めて
巧みに並びたててみることだと思う。
ルイシュの公開解剖を眺めていた別の学者は、片脚がない。
夜中になると、自分の切断された脚の部分が痛みだす。
彼の脚は特殊なアルコール液のなかに保存されている。
それを取り出して
膝の下に置いてみた。
そして先ほどからしきりに痛む場所に触れる。
でも触れたのは、痛みではなかった。
見えているものと感じているものには
きっと乖離があるんだろう。