#08 めぐり合ってしまったら
風邪をひいた。
頭蓋骨にセロハンをかけられたみたいだ。
外の世界がいつもより少しぼやけている。
本を開く。
解剖標本の保存を研究する博士が登場する。
とある夫人の家に訪れる。
彼女はとてもフレンドリーな人柄だが、
博士からすれば、彼女のもてなしなどどうともない。
標本を、少しでも早く見てみたい、その一心なのだ。
それを目にしただけで、触れてみたくなるもの。
手にとって、すみずみまで眺めてみたくなるもの。
構造を知りたくなるもの。
思いを馳せて、満たされた気持ちになるもの。
そんなものにめぐり合えたら
ほかのことに気をまわしている時間なんてないだろう。
めぐり合うまでにはたくさんの寄り道が必要かもしれない。
しかし一度めぐり合ってしまったら、もうわき目を振ってはいけない。
自分で道を切り開いていくのみだ。