#02 痕跡をよせあつめて、地図を更新する
街は動かない。
ずっと、そこにある。
ただ、出来事を置き去りにしたまま。
„ 私 ” が学んだ学部の建物は、戦時中、ナチス親衛隊の本部が置かれていた。
この場所は、本質的には死者に属していたのだ。
ふちがすり減った階段、足跡でいっぱいの廊下。
ありとあらゆる空間に、痕跡がのこっている。
たしかに街についてしまった痕跡というのは根深いし、
それとおなじくらい、自分でつけた痕跡だって払拭しがたい。
特定の人としか訪れたくないような街だってあるし
一人きりで居たい場所だってある。
たぶん、誰かと同じ場所を訪ねても
頭のなかでつけ足される地図の様相は、おおきく異なっているんだろう。
„ 私 ” は大学で、論理は自分を守るための盾や鎧といった武器になることを学び、
人は、塔や要塞に還元されうるものであると気づいた。
つまり、人は、一つの小さな王国なのだ。
頭の中なら、時間も距離も超えて、自分だけの世界をつくることができる。
なるべく鎖国を防ぐこと、同時に、更新を怠らないこと。
そして、保護しておくべきと判断した地区もときどき覗いて、手入れしてやること。
この行為はきっと、日々を刷新して
エネルギーを生み出すに違いない。
また一つ断章を読み終える。
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