#00 『逃亡派』と毎日つきあう
近頃、目標を定めづらくなっている。
よりよい人生のためにと、生きるうえでそれなりに選択肢を増やしてきた。
結果、一番やりたいこと、最も優先したいことの見分けがつけにくくなってしまった。
山手線のようにグルグルとまわっている。
ときに選択を誤って、大切なものを手に取れなかったり、振り落としてしまっているかもしれない。
じゃあ、私がこれまで大切にしてきたこととは、いったい何だったのだろう。
幼いころから、大体いつも本を読んでいた。
嘘つきな私でも、読書が好きな気持ちは本物らしい。
そういえば最近、読書をなおざりにしている。
これを機に、ゆっくり読書をして、書物とともに日々の思考を巡らせてみたい。
思考は変容する。だから、内省は残らない。でも、行動や表現は残ってくれる。
読書の実況中継を、ここで行ってみることにする。
私の好きな本の条件は、以下のとおりだ。
・ふだん潜り込めないような場所を見せてくれる
・一文が短く、面白い(自分のうちに存在しなかった)言い回しをする
・街の色彩や様子、人の個性的なふるまいが細かく描写されている
・ものや人に対する批判があまりない
・断片を寄せ集めたような話である(なぜなら私の日常に、一貫性はないからだ)
そこで、オルガ・トカルチュクというポーランドの作家の書いた本が目をひいた。
正確には、『逃亡派』というタイトルが、つよく印象に残ったのだ。
逃亡、できるものならもちろんしてみたい。
放浪を唯一の正しい生き方とする彼らの考えに作者が共鳴し、タイトルに使ったそうだ。
国際ブッカー賞も受賞しているので、信頼もできそうだ。
表紙の架空の地図(?)も、なかなかに精密で、どこかしらユーモラスな可愛らしさがあって良い。
中身にさっと目を通して、条件に当てはまっていそうなことを確認し、レジへ持っていく。
一気読みはしない。誕生日を迎えるまでの1カ月間で、ゆっくり読み進めようと思う。
山手線のような日常の中で、まいにち少しずつ、良い書物とともに放浪してみたい。
そしてときどきここに、実況中継のように、記録を加えていく。
これから毎日が楽しみだ。