#04 時間との距離がない
本を開く。クニツキという男が突然あらわれる。
断片なので、唐突さには耐えなければならない。
そういえば今日、渋谷区立中央図書館まで散歩をし、緑に囲まれた小道を見つけた。
両脇に花が植わっていて、雨上がりだったので甘くやわらかい香りが立ち込めていた。
「小道が好きなの?」ときかれたけれど、そうではない、
唐突に良いものと遭遇することが好きなのだ。
場面は、クニツキが車から突然きえた妻子を探しているところから始まる。
クニツキは、2人が消えてから、どれくらいの時間が経ったか分からなかった。
時間を確認しなければならないなんて
2人がドアから出ていくときは知らなかった。
何も考えていない状態に、満足していた。
時間が喪失する感覚は、一種の快楽状態だ。
時間との距離がないことこそが、歓喜の定義なんだろうか。
クニツキはカフェで出会った男に協力してもらいながら、捜索をする。
時間がさっきまでとは違う風に流れているのを意識する。
時間は、連続するエピソードからできていることを知る。
私たちが時間が欲しいと願うとき
それは時計の針のことを指すのではなくて、
きっと、時間を忘れるほどの、何かしらのエピソードを欲しているんだ。
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